2026年3月17日、東京地裁は妻と別の男性が路上で抱き合いキスをした行為について、肉体関係がない限り「不貞行為(不法行為)」にはあたらないとし、夫が求めた損害賠償を退けました。裁判所は親密な関係と認めつつも、不貞行為の定義を肉体関係の有無に限定し、法的な慰謝料の対象とはなりにくい姿勢を示した事例です。

― 東京地裁判決から見る慰謝料請求の現実 ―

配偶者の不倫を疑ったとき、多くの方が最初に抱くのは「どこまでが不貞なのか」という線引きの問題です。今回、キスや抱擁といった行為が争点となった裁判で、東京地裁は「不貞行為にはあたらない」と判断し、夫側の請求を棄却しました。この判決は、不貞調査や慰謝料請求の戦略に大きな示唆を与えます。

不貞行為の法的定義と今回の判断

民法上の「不貞行為」とは、一般的に配偶者以外の異性と自由意思に基づいて肉体関係を持つことを指します。ここで重要なのは、「親密さ」や「恋愛感情」ではなく、性的関係の有無が中心的な判断要素である点です。

今回の裁判では、妻と男性が
・手をつないで歩く
・抱き合う
・キスをする
といった行為を繰り返していた事実は認められました。

しかし裁判所は、
・肉体関係を裏付ける証拠がない
・接触の程度が性的関係に準じるとはいえない
・関係の継続性が限定的である

といった点を踏まえ、「結婚生活の平和を侵害する違法行為」とまでは評価できないと判断しました。

「親密=不貞」ではない現実

依頼相談の現場でも、「キスしていた=アウトでは?」という認識は非常に多いです。しかし、実際はそう単純ではありません。

裁判所が見ているのは以下のような要素です。
・ホテルへの出入りの有無
・長時間の密室滞在
・継続的な関係性
・身体関係を推認させる状況証拠

つまり、単発的・表面的な接触だけでは慰謝料請求は成立しにくいというのが現実です。

調査における重要な視点

この判決から明確になるのは、「証拠の質」の重要性です。

例えば、
・路上でのキス写真
・手をつないでいる場面

これらは「関係性の補強資料」にはなりますが、単独では決定打にはなりません。

一方で、以下のような証拠は評価が大きく変わります。
・ラブホテルへの出入り
・宿泊を伴う行動履歴
・複数日にわたる密会記録

つまり、調査設計の段階で「どこまで証拠を取り切るか」が極めて重要になります。

調査のタイミングが結果を左右する

今回のケースで見落としてはいけないのは、「関係の深まりを捉えきれていない可能性」です。

不貞関係は、以下のようなプロセスを辿ることが多いです。

  1. 接触(食事・会話)
  2. 親密行為(キス・ハグ)
  3. 肉体関係

今回の判決は、あくまで「第2段階までの証拠」しかなかったケースともいえます。

もし調査のタイミングが遅れていれば、あるいは継続していれば、結果は異なっていた可能性も否定できません。

慰謝料請求を見据えた現実的な戦略

慰謝料請求を前提とする場合、重要なのは以下の整理です。

・感情ではなく「立証可能性」で判断する
・単発の証拠で結論を出さない
・調査範囲と期間を戦略的に設計する

特に、「怪しい場面を押さえたから終了」という判断はリスクが高く、今回のように請求自体が否定される結果にもつながります。

今回の東京地裁判決は、以下の点を明確に示しています。

・キスや抱擁だけでは不貞行為とは認められにくい
・慰謝料請求には肉体関係の立証が重要
・証拠は「量」ではなく「質」が決定打になる

不貞問題は感情的になりやすい分野ですが、最終的に判断するのは裁判所です。だからこそ、初動の段階から「どのレベルの証拠が必要か」を見極めることが、結果を大きく左右します。

調査を行うかどうか、あるいはどのタイミングで行うか。その判断自体が、すでに戦略の一部であると言えるでしょう。

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